平成11年度までに、われわれが小胞体から核への細胞内情報伝達を伴う転写誘導機構UPRに特異的な転写因子として単離したヒト・ベーシック・ロイシンジッパータンパク質ATF6は小胞体膜に埋め込まれたII型の膜貫通型タンパク質として構成的に合成されており、プロテオリシスにより活性化されることを明らかにしていた。平成12年度よりATF6についてさらに詳細に解析し、以下の知見を得た。 (1)プロテオリシスに伴ってATF6のN末端断片が小胞体から核へ移行する(間接蛍光抗体法による可視化)。(2)転写誘導に必要十分として働くシス配列ERSEはCCAAT-N9-CCACGをコンセンサスとする。ATF6は単独ではERSEに結合しないが、CCAATにユビキタスな転写因子NF-Yが結合していると核移行型のATF6はCCACGに結合することができる。(3)野性型および種々の変異体ERSEの核移行型ATF6への結合と転写誘導活性は強く相関する。(4)ATF6のプロテオリシスによる活性化はセリンプロテアーゼインヒビターであるAEBSF (濃度300μM)でかなり特異的に阻害される。その時、UPRの標的遺伝子であるBiP/GRP78(代表的な小胞体内分子シャペロン)の転写誘導が強く抑制される。(5)マイクロアレー技術を用いてUPRおよびATF6の標的遺伝子を網羅的に解析した結果、UPR標的遺伝子の約半数がATF6により直接的に制御されており、それらはほとんどすべて小胞体に存在する分子シャペロンやフォールディング酵素である。(6)家族性アルツハイマー病の原因遺伝子であるプレセニリンに変異が入るとATF6の活性化が抑制される。 以上の結果は、ATF6がUPRにおいて中心的な役割を果たす転写因子であることを強く支持している。
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