Notch受容体(Notch)を介する情報伝達系(Notch情報伝達系)は、細胞間の直接的接触による情報伝達に機能しており、多様な細胞運命の決定を制御している。Notchは、1回貫通型膜タンパク質である。Notchの活性化がおこると、Notchが膜貫通ドメイン内で切断され、Notchの細胞内ドメインが細胞膜から遊離して細胞核に移動することで、情報が伝達される。Notch活性化にともなう切断で機能するプロテアーゼは、家族性アルツハィマーの原因遺伝子の産物であるβ-アミロイド前駆体タンパク質(APP)を切断するγ-secretase(分子レベルの実体は明らかでない)と同一であると推定されている。γ-secretase-様プロテアーゼ遺伝子の突然変異体を同定し、同遺伝子をクローン化できれば、切断やその調節機構も含めたNotchの活性化機構が明らかにできるはずである。本研究計画では、ショウジョウバエを用いて、このγ-secretase-様プロテアーゼ遺伝子の突然変異体を、表現型を指標として検索した。γ-secretase-様プロテアーゼ遺伝子の突然変異体では、Notchの活性化がおこらないために、Notch突然変異に特徴的な表現型であるneurogenic表現型(神経芽細胞の過形成)が観察されると考え、neurotic表現型を示す突然変異体に注目した。その結果、neurogenicと命名した新規突然変異体は、その母性効果をのぞいたときにneurogenic表現型を示す、母性neurogenic遺伝子であることを明らかにできた。さらに、neurogenic遺伝子は、Notch情報伝達に必須であった。さらに、neuroticの原因遺伝子を、単一の遺伝子座として同定することができた。
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