リソソームタンパク質の細胞内輸送は、N-アセチルグルコサミンホスホトランスフェラーゼ(GPT)が特定の立体構造を認識し、その糖鎖をマンノース6リン酸化することから始まる。ウシDNaseI上には2カ所の糖鎖結合部位と2カ所のGPT認識部位があり、それぞれの箇所を認識して結合したGPTによって異なる位置にある糖鎖が酵素作用を受けている。このことは、認識部位と糖鎖との立体的な位置関係がGPTの作用には重要であることを示唆している。COS細胞で発現させたウシのワイルドタイプDNaseIは18位と106位の2カ所に糖鎖が結合できる。我々は、レクチンやグリコシダーゼを用いてそれぞれの位置に結合した糖鎖の構造を大まかに分析したところ、互いに若干の違いのあることが明らかになった。一方、GPTがより強く認識するように27位または74位にリジン残基を導入置換したDNaseIでは、両糖鎖ともリン酸化はされるが、常に106位の糖鎖は2残基のリン酸が結合しており、18位には1残基しか結合していないことが判明している。この原因を明らかにするために、COS細胞で多量の27位または74位にリジンを導入置換した変異DNaseIを発現させ、培地中より精製した。来年度はこれらの糖鎖構造を解析し、リン酸残基の付加数の異なる原因を検討する。 ところで本研究中に、COS細胞で発現させたウシDNaseIは2カ所ある糖鎖結合可能サイトの両方に糖鎖が結合していたが、天然のウシ膵臓から精製したDNaseIには一カ所にしか糖鎖が結合していないと云う違いを発見した。そこで、このような違いをさらに詳しく検討した結果、臓器によってDNaseIへの糖鎖付加状況が異なることを発見した。つまり、膵臓や腎臓のDNaseIには糖鎖が一本しか付加していないが、脾臓や肺、顎下腺などでは二本付加したDNaseIが発現していることを見いだした。これらの結果は論文として発表した。
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