タンパク質の細胞内輸送において輸送タグであるマンノース6リン酸を持つものは、トランスゴルジ嚢からエンドソームへと輸送されリソソームタンパク質となる。N-アセチルグルコサミンホスホトランスフェラーゼ(GPT)は、この輸送タグをタンパク質に付加する酵素で、リソソームタンパク質特有の立体構造を認識してその糖鎖をマンノース6リン酸化する。ウシDNaseI上には2カ所の糖鎖結合部位と2カ所のGPT認識部位があり、それぞれの箇所を認識して結合したGPTによって異なる位置にある糖鎖が酵素作用を受けている。このことは、認識部位と糖鎖との立体的な位置関係がGPTの作用には重要であることを示唆している。我々は、以前レクチンやグリコシダーゼを用いてそれぞれの位置に結合した糖鎖の構造を大まかに分析し、互いに若干の違いのあることを見出した。そこで本研究では、片方の糖鎖しか持たない変異DNase IをCOS細胞に発現させて精製し、糖鎖を切り出した後蛍光標識して詳細な糖鎖構造解析を試みた。 2箇所どちらに結合している糖鎖とも非常に多様な構造をしており、すべての糖鎖構造の解析は未だ終えていないが、大まかな傾向として、N末端に近い方の糖鎖は、1-6結合マンノースの枝にリン酸残基が一箇所結合した混成型糖鎖の存在量が最も多く、C末端側の糖鎖は、1-6、1-3結合マンノースの両枝に1箇所ずつリン酸残基が結合した高マンノース型糖鎖が主であった。 ところで本研究中に、COS細胞で発現させたウシDNaseIは2カ所ある糖鎖結合可能サイトの両方に糖鎖が結合していたが、天然のウシ膵臓から精製したDNaseIには一カ所にしか糖鎖が結合していないと云う違いを発見した。そこで、このような違いをさらに詳しく検討した結果、臓器によってDNaseIへの糖鎖付加状況が異なることを発見した。つまり、膵臓や腎臓のDNaseIには糖鎖が一本しか付加していないが、脾臓や肺、顎下腺などでは二本付加したDNaseIが発現していることを見いだした。これらの結果も論文として発表した。
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