Heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)はEGFファミリーに属するヘパリン結合性の増殖因子である。HB-EGFは膜結合型(proHB-EGF)として合成され、TPA等の刺激によって細胞表面でプロテアーゼによる切断を受け、分泌型(sHB-EGF)となり、sHB-EGFはEGF受容体(EGFR)発現細胞に対して増殖因子活性を示す。これまでの研究から、HB-EGFは、その膜結合型が増殖抑制因子、分泌型は増殖促進因子として、それぞれ別個に機能し、さらにこの膜結合型から分泌型への転換が厳密に制御されていることが明らかとなっている。しかし、これらのことはすべて培養細胞レベルでの実験によって明らかになったものであり、その生理的意義については未だ不明である。そこで、HB-EGFの生体内における実際の機能を解析するために、HB-EGF遺伝子変異マウスを作製し、そのマウスの表現型を詳細に解析することによって、HB-EGFの膜結合型、分泌型及びその転換機構の生体内での生理的機能を解明することを目標とした。今回、proHB-EGFの切断制御の生理的重要性を調べるため、マウス個体を用いて、膜型の切断によらない分泌型発現が生体へ及ぼす影響について検討を行った。まず、マウス胎仔の上皮に野生型proHB-EGFあるいは膜貫通部位を欠失させた分泌型変異HB-EGF(HBΔTM)のcDNAを過剰発現させたところ、proHB-EGFの場合は何もおきなかったのに対し、HBΔTMではその発現部位において局所的な上皮の過形成が観察された。次にマウスのHB-EGP遺伝子をHBΔTMのcDNAに置き換え、分泌型HB-EGFしか発現しないノックインマウスの作製を試みた。するとHB-EGF遺伝子の片側alleleのみHBΔTMcDNAに置き換わったES細胞を持つキメラマウス、あるいはそのFlヘテロマウスで、多くの個体が胎生期又は生後すぐに死亡することが観察された。またその表現型の特徴として皮膚の著しい肥厚などの複数の組織の形成異常が認められた(論文投稿中)。これらのことから、生体内ではproHB-EGFの切断は厳密に制御されており、このステップが増殖因子の活性発現を制御する重要な機構であることが明らかとなった。
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