本研究ではnodalの左側での発現が最初にどのようにして誘導されてくるのかに注目し、nodal遺伝子のASEとは異なったエンハンサーに注目し、解析を進めた。まず、nodal遺伝子の新たな左側特異的なエンハンサーの同定を試みた。nodal遺伝子のゲノム領域をトランスジェニックマウスの手法を用いて解析したところ、上流約5kbに位置する約300bの領域に左側板中胚葉特異的なエンハンサー(LSE : lleft side specific enhance)を同定することに成功した。詳細な欠失解析から、LSEは3つのそれぞれ独立した領域が活性を示すのに必要であることが判明した。FoxH1結合配列を持たず、ASEとは異なり非常に複雑な制御を受けていることが予想された。 LSEの役割を証明するため、LSEエンハンサー領域を除いた、欠失型ノックアウトマウスを作製することによって、機能を調べてみた。ES細胞を用いて、LSE領域を含む約500bをloxP配列で挟んだPGK-neo遺伝子と置換し、さらにCre遺伝子を発現させることによってPGK-neo遺伝子を除いた。このES細胞を胚盤胞に導入し、ノックアウトマウスを樹立した。LSEを欠損したホモマウスは生まれてきて、成長するが、正常なマウスに比べると、成長が遅い。また、生後すぐのマウスの心臓の形態を調べると、心房中隔欠損が見られるものがあり、左右軸形成に異常を来していることが予想された。しかし、他の臓器の左右非対称性は正常であり、大きな影響は見られなかった。そこで、詳細に左側側板中胚葉での遺伝子発現を調べたところ、nodalは一見正常に発現しているが、その発現時期が正常胚に比べて遅れて出てくることを観察した。
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