研究概要 |
ナメクジウオ類が持つ固有形質の発生における分子機構を明らかにするために、初期発生に重要なwnt7,wnt8、deea pentaplegic-typeのbmp遺伝子の単離とその発現パターン解析を行った。Bmpはbmp2とbmp4が分かれておらず、1つの遺伝子として存在する(Bbbmp2/4)。これら遺伝子の発現のタイミングおよびwnt遺伝子の発現領域は、脊椎動物のものとよく似ている。しかし、Bbbmp2/4では最初の発現が原腸壁、その後、原口背唇部と原腸先端部に強い発現が認められる。最初の発現は脊椎動物と逆になり、その後の発現は、脊椎動物ではChordin・NogginやCerberusによってBMP4の働きが抑制される部位に相当する。ナメクジウオ類の固有形質は体の前方部で顕著なこと、その部位ではBbbmp2/4の発現が長く継続することから、Bbbmp2/4蛋白がナメクジウオ類前方部の固有形質の発生に重要な働きをする分子である可能性がある。これを明らかにするために、現在、機能解析実験を計画している。また、上記3つの遺伝子とhnf-3・brachyury遺伝子の初期発現パターンは、ナメクジウオ類の発生が前方部(側憩室の領域)と後方部(分節的中胚葉の領域)で異なったメカニズムにもとづいていることを示唆する。ただし、第1体節体腔嚢は例外となる。これら2つの領域は解剖学的に見て、それぞれ、後口動物の基本形と考えられている三体腔の前体腔と後体腔に対応すると推定される。 また、免疫染色法によって、変態期を含めた幼生から成体までの末梢神経系の発生的推移を明らかにした。ナメクジウオ類では口が左側面に開口して間もなく、口の周囲に固有神経である口周神経が形成される。口周神経は左側の第3-5末梢神経とだけ吻合する。幼生期に口の形状は大きく変化して、それにともない口領域を支配する神経も、支配神経・走行パターンにおいて激しく変化する。この変化はナメクジウオ類で固有にみられるもので、脊椎動物には類似の現象はない。変態期に、口は左側から腹側正中に移動するが(幼正期の口に対応する部分は輪盤になる)、そのときに最初に口周神経と吻合していた神経は、その吻合を維持し続ける。その結果、成体で見られる口領域の左右非対称な神経支配が形成されることが明らかになった。
|