ヒツジ、マウス、ウシ、ブタ等の種々の哺乳類で体細胞クローンの誕生が報じらた。しかし、どの例でも出生率は極めて低く、また、正常に出生した場合でも胎盤の過剰形成等の異常や、新生児での致死率が高いことも明らかになってきた。この原因として体細胞核の未受精卵での初期化の段階が不完全であり、個体発生過程における遺伝子発現制御異常の可能性が考えられた。 そこで今年度は、形態的な異常が多く検出されるクローンマウスの出生時の胎盤を用い、異常な発現パターンを示す遺伝子の体系的な探索を行った。約600遺伝子がスポットされているフィルターを用いて、正常胎盤とクローン胎盤(重量比で正常の約3倍)における遺伝子発現量を比較したところ、明らかにクローン胎盤において減少を示す遺伝子6個を同定した(投稿準備中)。 これらはクローン胎盤で共通して減少する遺伝子と、クローン胎盤の一部にのみ異常が見られるものに分れた。これらの遺伝子の発現量や発現部位をmRNAのin situ hybridizationやタンパク質の免疫染色で解析したところ、本来発現しているべき細胞種において発現が低下、消失していることを確認した。このことは、クローン胎盤を構成する種々の細胞種において遺伝子発現に異常があることを意味している。 大変興味深いことに、異常を示した6つの遺伝子のうち3つは片親性発現制御を受けているインプリンティング遺伝子であった。しかし、他のインプリンティング遺伝子には異常は見られなかった。すなわちクローンマウスにおいては、ゲノムインプリンティングの制御機構全体に異常を生じた訳ではないが、高い比率でインプリンティング遺伝子に異常が見られることには、何らかの意味がある可能性がある。 クローン胎盤における遺伝子発現異常が判明したため、今後、クローン胎盤の巨大化や、クローン胎児の致死性の原因解明のため、DNAチップを用いた大規模な遺伝子発現解析を進める計画である。
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