本研究は、頭部形成に関わる遺伝子カスケードを明らかにすることを目的とする。このために、頭部形成を制御するLim1転写因子の直接、又は間接の下流遺伝子を単離し、機能の解析を行う。 マウスにおいて原腸陥入の開始前後の頭側visceral endoderm(AVE)は、これより以前に胚体中央部(着床部位に体して遠位部)に位置し、頭側へと移動したものである。さらに、AVEは胚体外組織へと移動し、原索より形成さ`れたmesendodermと入れ代わる。これら移動する組織と予定頭部神経組織との相互作用により、頭部誘導が進行すると考えられる。 Stoma遺伝子は、Lim1変異体と野生型胚を用いたディフィレンシャル・スクリーニングによって、Lim1変異体で発現量が低下する新規遺伝子として単離された。本年度は、前年度に作成したStoma遺伝子のマウス変異体の解析に重点を置いた。その結果、原腸陥入期においては、変異個体すべてが胚体外組織の形態異常を示すことが明らかとなった。形態異常は、主に頭側の胚体と胚体外組織の境界部に親察され、この領域における細胞の過度の蓄積と推定された。これらの細胞は、組織学的特徴、およびマーカー遺伝子の解析からvisceral endoderm(VE)の性質を示した。また、変異個体で細胞増殖率の著しい上昇は認められなかった。 最近、Stoma遺伝子は、ヒトAngiomotin遺伝子と相同であることが明らかになった。Angiomotinは、Angiostatinの相互作用因子として同定され、血管内皮細胞の移動を制御することがin vitroの解析から確認されている。これらのことから、変異個体の形態異常は、(頭側に顕著な)VEの移動能力の低下によるものと判断している。一方、Stoma変異体においては、VEの胚体中央部から頭側の移動とAVEの機能は正常であった.これらから、Stomaは胚体から胚体外組織へのVEの移動を制御すること、VEの頭側から胚体外への移動が、胚体中央部から頭側への移動とは異なる分子機構により制御されることを予想している。
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