Wnt-1遺伝子の働きを明らかにするためにpoint mutationをもつswaying(Wnt-1^<sw>)マウスの持っ形態学的な異常を中脳及び小脳の同じ領域に形態学異常を伴うミュータント(UNC5h3^<rcm>マウスと比較検討することで以下のような事がわかった。 UNC5h3^<rcm>マウスの胎生14日には中脳と小脳は対照と同様に形成されているが、swaying(Wnt-1^<sw>)マウスでは同時期にまだそれらの形成は見られない。このことからWnt-1遺伝子自身が細胞発生および分化の過程に関与しているが、出生直後にこれらの領域の形成が見られることから、単に中脳及び小脳の形成を遅延させているだけの可能性が示唆できた.中脳-小脳も融合についてはUNC5h3^<rcm>マウスではそれらの境界部周囲に異所性の小脳神経細胞が限局して現れているが、swaying(Wnt-1^<sw>)マウスでは中脳上丘と下丘の間あるいは中脳深部に、他のミュータントよりさらに多くの異所性の小脳神経細胞が侵入していた。このことはUNC5h3^<rcm>マウスではUNCsH3蛋白質/それらの受容体の相互関係の崩壊により、中脳よりの最も小脳前葉の細胞自身だけがそれらの最終位置を認識できず、位置異常を引き起こす。一方、swaying(Wnt-1^<sw>)マウスではWnt-1遺伝子により発生初期に、小脳-中脳境界部が完全に崩壊させられ、小脳前葉の細胞が中脳領域に誘引されたり、小脳前葉自身のそれぞれの小葉を分ける溝の消失あるいはそれぞれの小葉同士の融合が起こり、層構造の変化がもたらされた可能性が考えられる。 平成12〜13年度の検索では、Wnt-1遺伝子(蛋白)の働き、すなわち、Wnt-1遺伝子が細胞の発生・分化を支配する可能性と中脳と小脳の融合とそれに引き続いておこる変化の機構がわかった。
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