Ghost tangleは処理される:パーキンソン痴呆症CA1における処理機構

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12680742
• 研究機関: (財)東京都医学研究機構
• 研究代表者: 小柳 清光 財団法人 東京都医学研究機構, 東京都神経科学総合研究所, 副参事研究員 (00134958)
• キーワード: パーキンソン痴呆症 / CA1 / 神経原線維変化 / 清掃処理 / アストロサイト / ミクログリア

研究概要

【目的】私どもは過去に、パーキンソン痴呆症(PDC)の海馬でghost tangle、すなわち神経原線維変化(NFT)が神経細胞の死によって細胞外に位置するようになったtangleが処理され消失していくことを定量的に確認した。本研究はPDC、アルツハイマー病の治療法開発を最終目的として、ghost tangleのヒト脳内における処理清掃機構を、アストロサイト、ミクログリアとの関連から解明する。
【対象と方法】PDC23例、対照11例を用いた。側頭葉CA1を含む海馬領域で下記の観察を行った。
1.NFTと細胞外神経原線維変化(ghost tangle)についての基本的な所見を把握するため、タウ、amyloid P component免疫染色、ガリアス染色、チオフラビンT蛍光観察と合わせて、ヘマトキシリン-エオジン、クリューバー-バレラ、ボディアン染色等を行って光学顕微鏡、共焦点顕微鏡観察した。
2.#1と対応して同一症例で、グルタールアルデヒド固定された海馬CA1の通常の電顕観察を行い、ghost tangleの超微形態変化と、アストロサイト、ミクログリア等との関連を透過型電子顕微鏡で観察した。
3.ghost tangleとアストロサイト、ミクログリアとの関連を明らかにするため、ガリアス染色またはamyloid P component抗体と、GFAP、LN3、CD68、HRLDR、ubiquitin抗体等を用いた二重免疫染色を行ない光学顕微鏡、共焦点顕微鏡で観察した。
【結果と考察】細胞外に位置するghost tangleのfibril間にはアストロサイトの突起が強く入り込み、fibrilのコンパクトな配列はゆるんでいた。細胞内NFTがpaired helical filaments(PHFs)であるのに比較し、ghost tangleのfibrilの殆どがstraight tubules(STs)であった。すなわちPHFsはアストロサイトによって細胞外でprocessされ、STsに変化したと考えられる。このとき種々のタウ抗体に対する免疫反応は陰性となった。ところがPHFsやSTsがアストロサイトの胞体内ライソゾームに取り込まれている像は認められなかった。すなわち細胞の外に位置するようになったNFTすなわちghost tangleは、あくまで細胞外で処理されるもののようであった。この処理はアストロサイトから分泌された何らかのmatrix proteaseによって行われている可能性がある。一方 ghost tangleのfibrilに対するミクログリアの接触は形態学的には明らかでなかった。

研究成果

• [文献書誌] 山崎峰雄,巻渕隆夫,K-M Chen,森修,片山泰朗,高橋均,小柳清光: "パーキンソニズム、痴呆、眼球運動障害を呈し、視床下核、淡蒼球外節、黒質に神経細胞脱落と神経原線維変化を認め、tuft-shaped astrocytes、argyrophilic grainsを認めた1980年剖検Guam症例"Neuropathology. 20・Suppl.. 179 (2000)
• [文献書誌] 土谷邦秋,石津秀樹,中野今治,喜多也寸志,羽賀千恵,久山圭介,西中哲也,小柳清光,池田研二,黒田重利: "Generalized variant of Pick's diseaseの基底核病変:4剖検例の臨床病理学的検討"Neuropathology. 20・Suppl.. 109 (2000)
• [文献書誌] Oyanagi K,Tuchiya K,Ymazaki M,Ikeda K: "Substantia nigra in progressive supranuclear palsy, corticobasal degeneration and parkinsonism-dementia complex of Guam : specific pathological features"Journal of Neuropathology and Experimental Neurology. 60・4(印刷中). (2001)