意識レベル維持や高次統御機能にとって重要と考えられている皮質神経回路の律動的同期活動を調節するメカニズムを、チャネルから局所回路に至るレベルにおいて研究するため、マウスから視床-皮質神経結合を保つスライス標本を作成し、自発的あるいは電気刺激により誘発される皮質の律動的興奮現象を電気生理学的に記録した。まず、視床と皮質の神経結合が保たれていることを確認するため、膜電位感受性蛍光色素を用い、スライス全面より光学的2次元電位測定を行ったところ、視床または途中の線維束の電気刺激により皮質の一部(体性感覚バレル野)において興奮性の反応が観察された。また、その部位からは細胞外記録によるフィールド電位としてもシナプス反応が確認された。この標本で4-aminopyridine等の潅流により神経回路の興奮性を高めることで、高頻度の律動的神経活動が誘発されることが報告されているため、その確認も行ったが、今迄のところ確認出来なかった。また、光学的測定では時間分解能を高く保ち加算平均の出来ない場合にはS/N比が低く、色素の退色等の問題もあることから今回の目的には最適でないと判断し、より分解能に優れ解釈に信頼性のおけるwhole-cell patch-clamp記録を主にすることにした。その結果、皮質への入力線維を外包等でテタヌス刺激し、強力な興奮性を与えた時、その後の1〜2秒間に亙って10-40Hzの高頻度電位(または電流)振幅が観察された。この高頻度律動的神経活動はT及びR型電位依存性CaチャネルのブロッカーとされるNi^<2+>やGABA_Aレセプターの拮抗薬であるbicucullineでは消失しなかった。今後、単に1ニューロンの律動性だけでなく、複数ニューロンの同期性にも注目し、揮発性麻酔薬も併せて回路網活動に影響を与える因子が何かを検討して行くつもりである。
|