伝達物質放出の分子機構は最近の研究によって分かり始めてきたが、放出部位の構造、シナプス小胞の係留機構等に関しては不明な点が、多く残されている。本研究ではまず、放出機構の細胞質蛋白質による制御の観点から、私たちが発見した細胞質蛋白質シナーフィンの作用機序を追究した。シナ-フィンのSNARE結合部位部分のペプチドを用いた実験によって、シナーフィンとSNARE複合体との相互作用が速い放出に必須であることが証明された。生化学的解析により、シナーフィンがSNARE複合体の会合を促進することがわかった。シナーフィンはシナプス小胞のドッキング後の膜融合あるいはその直前のステップで作用すると思われる。 伝達物質放出部位に局在する代謝型グルタミン酸受容体7型に結合する蛋白質の解析は現時点で、続行中である。これらの蛋白質のmRNAいずれもは極めて分解されやすく、これまでのところ完全長cDNAが得られていない。今後これらの蛋白質の実体と機能を解明する。 シナプス小胞の神経終末内の局在機構を知るため、ショウジョウバエ幼虫の神経筋接合部を用いて研究した結果、開口放出に続くエンドサイトーシスにおいて、シナプス前膜直下に存在するシナプス小胞のreadilyreleasablepoolの形成に細胞骨格蛋白質チューブリンが関与することを見だした。伝達物質放出およびエンドサイトーシスに際してチューブリンはきわめてダイナミックな動きを示すことが初めて不された。従来、神経終末には微小管は存在しないとされてきたが私たちの結果はシナプス小胞の循環におけるチューブリンおよび微小管の重要性を示唆する。
|