我々は小脳プルキンエ細胞と興奮性入力である平行線維との間のシナプスに見られる長期抑制がどのようなコンパートメントで、どのようなメカニズムで成り立っているかを第1の目標として研究を進めてきた。代表研究者は、これまでに、シナプスの長期抑制に代謝性グルタミン酸レセプターが深く関与することを明らかにしてきていたが、昨年度の研究により、パッチクランプによる電気生理的記録とリアルタイムカルシウム顕微鏡による計測を同期して行うシステムを完成して来た。それらをもとに平成13年度に更に研究を進めていく上で、1)代謝性グルタミン酸レセプターからIP3→IP3レセプターを介したカルシウムの放出量と細胞内のカルシウム量の相関関係、および2)放出されたカルシウムによるカルシウム依存性のカリウムチャネルの機能調節のメカニズムを明らかにすることが重要であると考えた。実際の実験では細胞として小脳プルキンエ細胞ではなく、海馬の錐体細胞を、IP3を刺激する代謝型レセプターとしてムスカリニツクのアセチルコリンレセプターを用いた実験系とし、海馬の脳スライスでパッチクランプ実験を行った。カルシウム量の調節には細胞の脱分極によるカルシウム流入を、IP3量の調節にはアセチルコリンのアゴニストであるカルバコールを用いた。カリウムチャネルの活性は、脱分極電流を流した時のスパイク発火頻度を指標とした。また、影響を受けるカリウムチャネルを同定するために種々のカリウムチャネルのインヒビターを用いた。その結果、海馬の錐体細胞ではSKチャネルが代謝型レセプターからIP3のカスケードを介したカルシウム放出に絡んで電流を発生する原因となっていることがわかってきた。膜の興奮性全体を視野に入れた研究の基礎となるデータとして今後の研究につなげていく予定である。
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