これまで哺乳類における遊離型アミノ酸は、すべてL-体から構成されていると考えられてきた。しかし最近、哺乳類の脳内に遊離型D-セリンやその生合成酵素であるセリンラセマーゼが存在することが明らかとなり、D-セリンがNMDA受容体グリシン部位を介してNMDA受容体の機能調節に何らかの役割を果たしている可能性がでてきた。これまでは7週令のラットを用いてD-セリンの取り込み部位の検討を行ってきた。本年度は、血液脳関門が完成していない1週令のラットにD-セリンを腹腔内投与し、D-セリン取り込み部位の検討を行った。D-セリン投与6時間後の中枢組織においては、小脳で最も多くのD-セリンの取り込みがみられた。続いて橋-延髄>大脳皮質>間脳>中脳>海馬の順でD-セリンが多く取り込まれた。また、D-セリン投与によって全ての脳部位でわずかであるが有意なL-セリンの増加が観られた。このL-セリンの増加は、セリンラセマーゼの逆反応によってD-セリンから合成されたと思われる。末梢組織では、腎臓=胸腺>脾臓>精巣>肺>心臓>肝臓の順でD-セリンが多く取り込まれた。さらに、D-セリン投与によって末梢組織においてもL-セリンの有意な増加が観られた。本研究によって、1週令ラットの中枢組織では小脳に、末梢組織では腎臓にD-セリンが多く取り込まれることが明らかになった。腎臓と小脳はD-アミノ酸オキシダーゼ活性が高いことが知られていることから、D-アミノ酸オキシダーゼの生理的役割との関連からも興味が持たれる。今後は、腎臓や小脳に存在するD-セリントランスポーターのクローニングを行っていく予定である。
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