本研究では、D-セリン取り込み部位の機能解析を行うためD-セリンをラット腹腔内投与した。1週令のラットでは、D-セリンは小脳に最も多く取り込まれ、続いて橋-延髄>大脳皮質>間脳>中脳の順で多く取り込まれた。また、D-セリンは腎臓に最も多く取り込まれ、胸腺>脾臓>精巣>肺>心臓>肝臓の順で多く取り込まれた。7週令のラットでは、D-セリンは脳全体に取り込まれ投与3時間或いは6時間後ピークに達した。一方、橋-延髄や小脳ではD-セリン濃度の減少が早く投与3日後にはコントロールレベルに減少した。末梢組織では、全ての組織でD-セリン濃度が投与3時間後でピークに達し、腎臓=胸腺>脾臓>肺>副腎>肝臓>精巣の順でD-セリンが多く取り込まれた。全ての組織のD-セリン濃度は比較的早く減少し、投与3日後にはコントロールレベルまで減少した。また、1週令の中枢組織、末梢組織、及び7週令の中枢組織において、セリンラセマーゼの逆反応と思われるL-セリン濃度の有意な増加がみられた。今後は、D-セリンの取り込みが多かった小脳及び腎臓を用いて、D-セリン取り込み部位の発現クローニングを行って行きたいと考えている。D-セリン末梢投与によって脳内のD-セリン濃度が有意に増加することが明らかとなった。D-セリンはNMDA受容体グリシン結合部位の選択的なアゴニストであることから、NMDA受容体伝達機構の低下が知られている精神分裂病及びアルツハイマー性痴呆症の治療薬となる可能性があると思われる。
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