研究概要 |
海馬錐体細胞に特徴的に発現するカルシウム結合蛋白質:ヒポカルシンの欠損マウスでは、海馬の形態形成や電気的活動には影響を認めないが、空間記憶の保持に障害が認められている。今回、我々は、海馬スライス標本を用いて、NMDA型グルタミン酸受容体刺激によるMAPキナーゼ(ERK)と転写因子CERBの応答を検討した。 正常マウスでは、NMDA刺激によるCREB応答の経時変化は、刺激開始から10分で最大を示し、30分後には刺激前のレベルに戻る。ヒポカルシン欠損マウスにおいても同様の経時変化が認められるが、正常マウスよりも有意に低値を示した.また,ヒポカルシン欠損マウスではNMDA濃度依存性および刺激時間依存性のERK応答も正常マウスに対して有意に低値を示した.Ionomycin刺激によるERK応答もヒポカルシン欠損マウスでは、正常マウスよりも有意に低値を示したことから、ヒポカルシンは細胞内Ca^<2+>濃度上昇によるERK応答を調節していることが示唆された。しかし、グループI・代謝型グルタミン酸レセプターアゴニストであるDHPG刺激、cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素(PKA)の活性化剤であるForskolin刺激、Ca^<2+>/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素(PKC)の活性化剤であるTPA刺激によるERK応答は正常であることから、ヒポカルシンはPKAやPKCを介したERK応答には作用していないことが示唆された。 これらの結果から、ヒポカルシンは細胞外からのカルシウム流入によるERK cascadeの活性化維持に働き、記憶保持に働く遺伝子・蛋白質の発現制御に関与していることが示唆された。
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