線条体ではドーパミンにより制御される蛋白DARPP-32(dopamine- and cAMP-regulated phosphoprotein of Mr 32kDa)が選択的に発現している。DARPP-32はプロテインキナーゼA(PKA)によりThr34残基がリン酸化されるとプロテインフォスファターゼ1活性抑制蛋白として作用する。一方、神経型サイクリン依存性キナーゼ(Cdk5)によってDARPP-32/Thr75残基がリン酸化されると、機能解析の結果PKA抑制蛋白として働くことが明らかとなった。線条体神経細胞においてドーパミンD1レセプターを介するPKAシグナルはThr75残基リン酸化DARPP-32により調節を受けており、Cdk5によるDARPP-32リン酸化調節機構の解明はドーパミン細胞内情報伝達系を理解するために極めて重要である。ドーパミンによるDARPP-32/Thr75残基リン酸化調節の検討で、ドーパミンD1レセプターを介するPKA活性化はThr75残基リン酸化レベルを低下させるという結果を得た。薬理学的解析で、PKAはプロテインフォスファターゼ2Aを活性化しThr75残基脱リン酸化過程を促進することが明らかになった。総括すると、線条体神経細胞では"PKA活性化はDARPP-32/Thr75残基を脱リン酸化することでPKA抑制系を取り除き、PKA基質をより効率良くリン酸化する"というドーパミンD1シグナル増幅機構が機能していることが示唆された。
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