本研究の目的は、霊長類(マカクサル)の脳老化に伴う脳内機能分子の発現変化と認知機能がどのように関連しているのかを究明することである。現在、脳内機能分子として学習記憶に深く関与し、またmRNA量が加齢とともに減少することが知られている脳由来神経栄養因子(BDNF)に注目している。本研究では、脳老化に伴ってBDNFタンパク質がどのように変化するのかを免疫組織化学法によって調べた。まず胎生期から老齢期の海馬を採取し、BDNFに対するポリクロナル抗体を使用し、BDNF含有細胞の変遷を調べた。その結果、BDNFは海馬の顆粒細胞、CA3、CA2、CA1、海馬台の錐体細胞、嗅内野細胞などに存在した。また胎生140日から成熟期においては、海馬のシナプス数が最も多い生後6ヶ月にBDNFは最も多く存在していた。一方、25歳以上の老齢サルにおいては、10歳の成熟サルに比較して顆粒細胞、CA3、CA1および海馬台の錐体細胞、嗅内野細胞のBDNFタンパク量は顕著に減少していた。生後6ヶ月のマカクサルは好奇心がもっとも強く、また25歳以上では学習記憶能力が低下することが知られており、上述の研究成果は、BDNFがマカクサルの認知機能の発達と加齢に関与することを示唆している。現在、前頭連合野に関係する認知機能が加齢にともなってどのように変化するのかを調べている。
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