本研究の目的は、霊長類(マカクサル)の脳老化に伴う認知機能の低下と脳内機能分子がどのように関連しているのかを明らかにすることである。本年度は、脳内機能分子として脳由来神経栄養因子(BDNF)とその受容体(TrkB)に注目した。マカクサルの前頭連合野におけるTrkBの中で、チロシンキナーゼをもつTK+と欠損しているTK-が、発達に伴いBDNFによってどのようにダイマー形成されるのかを調べた。その結果、胎生期と新生児期にのみTK+のホモダイマーが形成され、成熟期ではTK-のホモダイマーとTK+/TK-のヘテロダイマーが形成された。従ってサル前頭連合野では、BDNFは胎生期から新生児期に主に作用し、神経細胞の生存やシナプス形成に関与することが示唆された。この成果についてはJ. Neurosci. Res.65:463-469(2001)に発表した。次にBDNFの免疫活性が海馬と前頭連合野の老化過程でどのように変化するのかについて、成熟期と25歳以上のサルについて比較検討した。その結果、25才以上のサルでは海馬歯状回の顆粒細胞、CA3、CA1および海馬台の錐体細胞のBDNFの免疫活性が成熟期に比べ顕著に低下していた。この成果については、Brain Res. 918:191-196(2001)に発表した。さらに25才以上の前頭連合野では、II、III、V、VI層の錐体細胞の細胞体、樹状突起におけるBDNF免疫活性の低下が観察された。またGO/NOGOの継時弁別課題を学習させたサルについて脳を採取し、現在BDNFの解剖学的変化と認知機能の変化の関連を調べている。これらについては論文を作製中である。
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