研究概要 |
本研究の目的は、霊長類(マカクサル)の脳老化に伴う脳内機能分子の発現変化と認知機能がどのように関連しているのかを究明することである。脳内機能分子として、神経回路網の形成や学習記憶に深く関与することの知られている脳由来神経栄養因子(BDNF)とその受容体(TrKB)に注目した。まず脳老化にともなってBDNFタンパク質がどのように変化するのかを調べた。その結果、10才のニホンザル前頭連合野(FD野)において、BDNFはII、III、V、VI層における錐体細胞に含有されていた。26才以上の老齢ザルにおいては、BDNFの免疫活性は顕著に減少した。さらに前頭連合野が関与していると思われる連続位置逆転課題を6才、10才および25、27、28才のニホンザルに学習させた結果、加齢とともに学習能力の低下が観察された。これらのサルの脳を採取し、現在BDNFの免疫組織化学を行っている。また前頭連合野と深いつながりのある海馬の顆粒細胞CA3、CA2、CAl、海馬台の錐体細胞や嗅内野細胞におけるBDNF活性を、10才(成熟期)と25才以上(老齢期)のサルとで比較すると、25歳以上ではBDNFタンパク質量は顕著に減少していた(Brain Res.918:191,2001)。一方TrkBの中でチロシンキナーゼをもつTK+と欠損しているTK-が、発達に伴いBDNFによってどのようなダイマーを形成するのか調べた結果、胎生期まではTK+/TK+のホモダイマーが、生後はTK-のホモダイマーとTK+/TK-ヘテロダイマーが形成されることが明らかとなり、BDNFのシグナル伝達は脳の加齢とともに顕著に変化することが予想された(J.Neurosci.Res.65:463,2001)。
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