オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の移動、増殖および移動を制御する分子を調べ、以下の成果を得た。 (1)ニワトリ胚後脳の脳室層の細胞をEGFP遺伝子の導入により標識し、これを経時的に追跡しOPCのマーカー抗体であるO4と二重標識することにより、OPCの移動を調べた。その結果、脳幹内側部にEGFPが導入された場合に限ってO4陽性/EGFP陽性細胞が出現した。さらに、少数ではあるがこのような細胞が小脳にも出現し、脳幹に由来するOPCが小脳まで移動するものも存在することが示された。 (2)OPCの増殖様式を明らかにするために、ブルモデオキシウリジン(BrdU)を投与した後に胚を固定し、O4との二重標識を試みた。その結果、OPCの起原とおもわれる脳室層ではBrdUを取り込むO4陽性細胞は20%程度であるのに対し、脳実質に入った直後のO4陽性細胞ではその50%がBrdUを取り込んでいた。したがって、OPCは脳室層よりも、脳実質に入った直後に活発に増殖することが明かとなった。 (3)OPCの細胞移動を制御する分子を明らかにする目的で、β1インテグリン(CSAT)、NCAM(5e)、N-カドヘリン(NCD-2)に対する中和抗体産生ハイブリドーマを脳室内に注入し、OPCへの影響の有無を視神経で解析した。その結果、NCD-2の脳室内注入により、視神経に見られるO4陽性細胞の数が対照群と比べて半減した。また、その分布も視神経の網膜側で減少する傾向にあり、細胞移動が阻害されていることが示された。一方で、培養実験で大きな阻害効果を示したCSATを脳室内に注入した例では大きな変化は見られなかった。したがって、N-カドヘリンがOPCの移動を制御する分子の新たな候補としてみいだされた。
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