研究概要 |
私達は環境の空間的な配置を脳内に再現(representation)することによって自分の位置を認知し,また種々の日常生活行動を行っている。これを認知地図(cognitive map)という。この認知地図に関係した神経機構を調べるために成熟したニホンザル2頭を用いて,人工現実感(virtual reality)による仮想空間内をジョイステック(JS)を操作して,最終目標の部屋までの道順を覚える探索行動課題(navigation task)を訓練し,上頭頂小葉内側領域(PGM野およびその付近)からニューロン活動を記録した。人工現実感は2階建ての建物内で,1階に8部屋,2階に7部屋の合計15部屋があり,すべての部屋は廊下またはエレベーターで連絡している。探索行動の開始の合図として,各タスクの最初に最終目標の部屋の内部のイメージが呈示された。訓練はまず,スタート地点(starting-point ; SP)から3方向(左,右,直進)を選択する課題(タスク)を学習させた。それが成功すると,さらに2番目のSPからの探索行動課題の訓練を行った。サルは15の部屋のうち,5つの部屋へ行く経路を学習した。 行動学的なデータでは,第2の訓練時間は最初の訓練時間よりも短時間であることが示された。さらに,新しいSPから次に行く方向を見つけるのに要する時間は第2の訓練後の方が短かった。記録実験では上頭頂小葉内側領域から記録されたいくつかのニューロンは位置によって発火活動が変化したり,ゴールの部屋のドアの前で発火活動が増加した。また,JSの動かす方向が同じ(例えば,左または右)でも,ある特定のルートの特定の位置でしか反応しないニューロンも記録できた。このことは上頭頂小葉内側領域のニューロンは広範囲な空間における探索行動に必要な空間的な情報を脳内再現しているのではないかと思われる。
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