研究概要 |
1.実験1:実空間移動課題におけるサル海馬体系ニューロンの応答性 実際に実験室内を移動する実空間移動課題および液晶パネル上のポインターを移動させる仮想空間移動課題に対するサル海馬体ニューロンの応答性を比較・解析した。その結果、1)海馬体場所識別ニューロンの応答を多次元尺度分析(MDS)を用いて実験室内の各場所を再現できる、2)海馬体場所識別ニューロンの活動を相互相関法で解析し、課題選択的な文脈情報は、海馬体錐体細胞ニューロン間の動的結合により符号化されることが明らかになった。 II.実験2:仮想空間移動課題におけるサル海馬体系ニューロンの応答性(梅野、西条) ジョイステイックを操作することにより,サルに3次元VR呈示装置による仮想空間内を移動させ、海馬体よりニューロン活動を記録した。この結果、1)仮想空間内の特定の場所で活動が亢進する場所ニューロンが存在する、2)これら場所ニューロンは、特定の空間的手掛り刺激を配置した仮想空間でのみ応答することが明らかになった。さらに、仮想空間内の特定の場所における報酬獲得の前後に応答するニューロンや特定の仮想空間内で特定の方向に向かって移動しているときに選択的に応答するニューロンが存在した。以上の結果は、海馬体が実空間だけでなく、仮想空間においても空間・場所認知に重要な役割を果していることを示したものであり、海馬体が空間概念の形成に関与していることを強く示唆する。 III.実験3:物体認知・順列記億の神経機構 若年者(20歳代)と老年者(50歳代)を用いて、12種類の音刺激を一定間隔で連続的に呈示し、個々の刺激が異なる順序で呈示されたときに反応する音順列課題に対する課題正答率および事象関連誘発電位(ERP)を解析した。その結果,1)300-700msecの潜時で特異的な陽性電位が記録される、2)若年群は高齢群,より有意に課題正答率が高い、3)若年群では、ERPの反応が高齢群と比較して大きい、4)課題の学習速度と同ERPの反応との間に、有意な負の相関が認められる、5)これらERPの電流発生源は、海馬体および海馬傍回を中心とする側頭葉内側部に存在することなどが明らかになった。以上から、海馬体は順列記憶の形成に重要な役割を果していることが判明した。
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