思考における情報処理は、神経系による柔軟な情報表現と、表現される情報の動的で合目的的な変化に特徴がある。思考に深く関わる前頭連合野においては、異なるモダリティーの情報が様々に重複した形で時空間的に表現されると同時に、場面や状況に応じて動的にその表現を変化させていくことにより、情報処理が進んでゆくと考えられる。そこで本研究では、前頭連合野ニューロンの活動を指標に、ある情報の表象は前頭連合野のニューロン群の時間的、空間的発火パターンにより表現されること、情報の処理や生成はニューロン群の時間的、空間的発火パターンの変化により表現されること、そして、このような変化はニューロン間相互作用の時間的変化に基づくという仮説をたて、これを検証した。 遅延眼球運動課題を訓練したサルの前頭連合野から記録した単一ニューロン活動とその記録部位をもとに、課題の遂行に関連する情報の時空間的表象を調べた。そのため、記録されたニューロン活動の強さを課題の条件(眼球運動目標として提示した視覚刺激の提示位置のちがい)ごとにまとめ、さらに50msごとに課題を区切って、その期間の活動の強さを求め、それを記録部位に表示した。その結果、視覚刺激が提示される位置のちがい、眼球運動の方向のちがいにより、ニューロン活動の強さの空間分布が異なることが見いだされた。また、強いニューロン活動の現れる空間的な広がりやその中心位置が、課題の時間経過に従ってダイナミックに変化することが見いだされた。このことは、ある情報の表象はニューロン群の空間的発火パターンにより表現されること、情報の処理はニューロン群の時間的、空間的発火パターンの変化により表現されることを示唆している。
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