大脳皮質には、ムスカリニック(mACh)とニコチニック(nACh)の2つのアセチルコリン(ACh)受容体が知られており、その作用は一見複雑である。しかし、シナプス反応に注目すると、両受容体は入力由来依存性に皮質細胞への入力を制御している可能性があることを、これまでに示してきた。すなわち、皮質内由来の入力についてはmAChにより抑制されるが、視床由来の上行性入力に対しては、nAChを介して反対に促通作用を受ける可能性を示唆してきた。本研究課題においては、視床由来入力に対しての促通効果を更に詳細に検討した。マウスの体性感覚野(バレル皮質)より視床との線維連絡を保った切片標本を作製し、視床由来の線維を選択的に刺激するために、刺激電極を視床の腹内側核におき、皮質IV層よりフィールド電位記録、及びパッチ電極を用いた細胞内記録を行い、nAChアゴニストの効果を検討した。その結果、nicotineはフィールド電位、シナプス電流いずれに対しても増強させる効果を示した。また、その効果は量子解析、またfailure解析の結果からシナプス前性である可能性が示唆された。さらに、nAChによる促通効果の層特異性を検討する目的で、光学的計測法による実験も行った。視床刺激に対して、バレル皮質ではIV層特異的に興奮領域が現れた。nAChアゴニストはこの興奮を更に増強する作用を示したが、約150msより遅いところではバレル構造特異的な抑制が見られた。以上の結果より、AChはnACh受容体を介して、皮質内での興奮伝播のダイナミックスを変調し、視床由来入力を時空間的により強調する作用をもたらすものと考えられる。
|