膜電位の光学的測定法を用いて脳表面の多領域から光学的に膜電位を同時測定することが可能になりつつあるが、動物の脳表面が呼吸や循環に伴ない動くことが光散乱の変化を来たし、アーティファクトとして光学シグナルに重畳することが問題となっている。本研究は、心房を対象に心拍動によるアーティファクトを減らす目的で開発した二波長式光学的膜電位測定システムを、大脳皮質からの膜電位の光学的測定に適用し、呼吸や心拍動に起因する動きの影響を極力受けずに、1020ヶ所の膜電位を同時測定することを目的とする。まず、透過光測定方式に作られている測定装置を螢光測光用に改造した。光源は超高輝度発光ダイオードを対物レンズを囲むように設置し、螢光測光用フィルターを設置した。実際に、ラットの大脳皮質を対象に光学的測定を試みた結果、記録したい部分の実像面にフォトダイオードを設置し、焦点を合わせるのが困難であることが判明した。そこで、ラットを脳定位固定装置ごと位置制御する光学ステージを新たに開発した。当面の間は、電気刺激ごとに緑色励起と赤色励起を交互に行い、加減算処理する方式で用いることにした。この方式は、高速にchoppingさせる方式に比較し、時間分解能が大きく取れる上、二波長のデータ間のクロストークも大幅に小さく出来ることが判明し、加算処理が必要な限り、より有効なサンプリングシステムと考えられるからである。ラットの足蹠を電気刺激し、膜電位感受性色素RH-414で生体染色した対側の大脳皮質感覚野から光学的に測定した結果、限局した領域から脱分極性の応答が記録できた。この光学応答は、双極電極を用いてフィールドで記録したデータで、電流密度が最も高くなる位置に時間も場所も一致しており、足蹠の電気刺激に対する大脳皮質感覚野応答が光学的に記録出来たと考えられる。
|