研究概要 |
遺伝子銃を用いて、中枢神経の様々な部位のニューロンに遺伝子を導入する試みがなされている。本研究では、エンケファリン(Enk)のプロモータ遺伝子を組み込んだGFP発現ベクターを作成し、マウス脊髄のスライス標本に遺伝子銃を用いて導入した。遺伝子のキャリアーとして用いる金粒子の直径(0.6,1.0,1.6μm)、遺伝子銃を駆動するヘリウムガスの圧力(1.0〜1.5MPa)、遺伝子銃から標本までの距離(4〜30mm)等のパラメータを調節することによって、脊髄後角表層に分布する小型のニューロンに遺伝子を導入することが可能となった。Enkプロモータによって発現するGFP蛍光を発するニューロンは、脊髄後角に分布するものが多かった。コントロールとして用いたCMVプロモータGFP発現ベクターでは、GFP蛍光を発するニューロンは脊髄全体に広く分布する傾向を示した。EnkプロモータによりGFP蛍光を発するニューロンは、大きさが5〜15μmと極めて小型で、"Stalked Cell"あるいは"Islet Cell"に似た形態を示した。"Stalked Cell"あるいは"Islet Cell"は従来、脊髄後角に分布するEnk含有ニューロンとして知られている。GFP蛍光を発するニューロンからパッチクランプホールセル記録を行い、膜電位依存性ナトリウム電流およびカリウム電流を記録することが可能であった。また、GFP蛍光を発するニューロンを採取し、単一細胞RT-PCR法によってNMDA受容体mRNAを同定することが可能であった。さらに、制限酵素による解析を加えた結果、Enk含有ニューロンとEnk非含有ニューロンとでは、発現しているNMDA受容体のサブユニットの組み合わせが異なることが示唆された。
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