目的:ヒトも動物も環境の空間的配置や道順を認知地図として記憶に貯えている。ラットやマウスの認知地図は海馬にあるといわれているが、ヒトの臨床的研究では頭頂葉の損傷で道順記憶の障害が起きることが知られている。したがって霊長類では認知地図が頭頂連合野に貯えられている可能性が高い。本研究の目的はサルに道順記憶課題を学習させ課題遂行中のニューロン活動を記録して空間的記憶に関連するニューロンを見つけ、認知地図の神経機構を解明することである。 方法:大型の立体視ディスプレイを使った人工現実感(Virtual Reality)のシステムでサル研究施設をモデルにした2階建の建物を再現し、サルにジョイスティックの操作でその中を移動するバーチャル航法を学習させた。はじめにゴールの部屋のイメージを示した後、入口ホールに戻しあらかじめ記憶した道順をたどってゴールに達する記憶誘導型道順課題を学習させた。最終的に5つの異なる部屋への道順を習得した後、出発点を廊下の端に変えて5つの部屋に行くコースを訓練し、合計10コースを習得させた後に単一ニューロン活動を記録した。 結果と考察:頭頂葉の内側面でPGM野(7m野)と呼ばれる領域にタングステン微小電極を刺入して記憶型道順課題遂行中の頭頂葉ニューロンの活動を記録した。各コースを8〜12のブロックに分けてラスター、ヒストグラムを作成し5試行の平均をとるとその中の1〜2箇所だけで活動するニューロンが見つかった。例えばエレベータの前、2階の廊下、各部屋の前、廊下の角を回る時などに活動するニューロンが記録された。これらのニューロンはあらかじめ記憶した個々の場所を同定するニューロンと見られるのでこれまで海馬で記録された「場所細胞」と同じカテゴリーの空間記憶ニューロンと推定される。連合野で「場所細胞」を記録したのは本研究がはじめてである。
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