サルの自発性上肢運動の開始前に、頭頂連合野の一部である頭頂間溝(IPS)後壁で、皮質表面で陰性、皮質深部で陽性(表面陰性-深部陽性)の電位(運動準備電位、RP)が記録された。この電位は、今までの形態学的知見から、視床に由来すると考えられた。麻酔下で、サルの視床枕核(Pul)を微小電気刺激し、IPS後壁において、層的フィールド電位を記録すると、上記RPと同様の表面陰性-深部陽性電位(浅層性視床大脳皮質応答、sTC応答)が誘発された。電位の極性は深さ約1700-1800μmで逆転した。IPS後壁にsTC投射を送る視床部位をより詳細に検索するため、麻酔下で、サルの頭頂連合野の皮質表面と深部(深さ2.0-3.0mm)に、慢性記録電極を設置した。手術から回復後、視床の微小電気刺激で誘発されるフィールド電位を記録した。後外側腹側核、後外側核刺激ではIPS前壁と上頭頂小葉に、Pul内側部刺激ではIPS後壁と下頭頂小葉に、Pul外側部刺激ではIPS周囲の広い範囲にsTC応答が引き起こされた。従って、Pul内側部が上記RPの出力源の最も有力な候補であると考えられた。Pul内側部は、帯状回より投射を受けていることが、形態学的に知られている。従って、上記RPは、帯状回より、Pul内側部を経て、IPS後壁へと至る投射によるものと推測された。これを検討するため、帯状回刺激により頭頂連合野に誘発されるフィールド電位を記録した。この結果、後部帯状回(Brodmann23野)の刺激により、Pul内側部刺激の場合と同様のsTC応答がIPS周囲で記録された。視床での中継を確認するため、帯状回刺激による電位が、視床へのリドカイン注入によりブロックされるかどうかを観察した。しかし、30%程度の振幅の減少が認められた場合があったが、消失することはなく、視床での中継を確証することはできなかった。
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