研究概要 |
麻酔下に成熟ラットの海馬を摘出し、矢状断スライス標本(厚さ400μM)を作成、灌流槽内に固定し、正常人工脳脊髄液(95%O_2-5%CO_2飽和、36℃)で灌流した。海馬CA1錐体細胞から細胞内記録を行い、酸素・グルコース除去液(95%N_2-5%CO_2飽和)を灌流し、実験的虚血負荷とした。虚血負荷に伴い発生する膜電位変化を記録し、以下の実験を行った。 1 実験的虚血負荷後約6分で急峻脱分極電位が発生し、直ちに正常人工脳脊髄液を灌流しても持続的に脱分極し膜電位、膜抵抗の回復は見られず、0mVに達する。Protein kinase A阻害薬(H-89)前処置により膜電位の回復が見られたが、Calmodulin阻害薬(W7,trifluoperazine)、Ca^<2+>/calmoduline(CaM)-kinase II阻害薬(KN-62)、CaM依存性myosin light chain kinase阻害薬(ML-7)では有意な膜電位の回復が認められなかった。 2 Protein kinase Cを活性化させるphorbol esterで前処置すると、膜電位の回復が部分的に認められ、阻害薬staurosporineではほぼ完全に膜電位が回復した。 3 Phospholipase A2,C阻害薬でアラキドン酸産生を抑制するpara-BPBで標本を前処置すると、膜電位の回復が見られた。一方、lipoxigenase阻害薬(NDGA)、cycloxigenase阻害薬(indomethasin)には著明な細胞膜保護作用を認めなかった。 以上のことから、protein kinase Aによる蛋白質リン酸化が神経細胞機能の不可逆性変化に関与していると考えられた。また、protein kinase Cの活性化も不可逆性変化に関与するが、アラキドン酸ファミリーには保護効果を示すものと不可逆性変化を促進するものとが混在していることが示唆された。
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