虚血性中枢神経細胞死におけるネクローシスとアポトーシスのクロストークの可能性を調べる目的で以下の実験を行い、新たな知見を得た。 ラットを低用量カイニン酸(KA)(5mg/kg)で前処置すると、海馬CA1領域にheat shock proteinが誘導され、in vivo脳虚血モデルではCA1錐体細胞のアポトーシスが抑制される。このKA前処置ラットを用いて海馬スライス標本を作成し、in vitro脳虚血(酸素・グルコース欠如液灌流:ネクローシスモデル)を負荷したところ、未処置群に比して急峻脱分極電位(RD)の発生潜時の延長とそのslope(dV/dt)の抑制が観察された。またRD発生直後に虚血負荷を解除すると、未処置群では脱分極が持続したままであるのに対し、前処置群では膜電位の回復する割合が増加した。RD発生潜時の延長や膜電位の回復に対するKA前処置の効果は投与3日後に最大で、以降、その効果は漸減した。また予め蛋白合成阻害薬を投与しておくと、RD発生に対するKA前処置の効果は抑制された。両群間においてCA1錐体神経細胞の電気的膜特性、神経終末からのグルタミン酸の放出効率やグルタミン酸受容体感受性に有意差はなかったが、KA前処置群では虚血解除後にNa/Ca-exchanger(NCX)の活性化に由来するslow DC potentialが未処置群に比して有意に増加していた。 以上のことより、KA前処置のRD発生への効果は何らかの蛋白合成が高まったことに、また虚血解除後の膜電位回復に対する効果はNCXの活性が高まったことに起因すると考えられた。このことは、KA前処置が脳虚血によって生じるアポトーシスを抑制するばかりでなく、ネクローシスをも抑制する事を示し、アポトーシスとネクローシスの間にクロストークが存在する可能性を示唆する。
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