本研究は、最終的にGタンパク関連細胞内シグナル伝達系がニューロンの興奮性をどのように調節しているかを明らかにするために、酵素活性の部位差や時間経過、ニューロン活動との時間的・空間的関係を解析しようとするものである。当該研究期間は、活性化により局在を変化させる性質を持つタンパク質リン酸化酵素C(PKC)に着目し、脳スライス標本上の単一ニューロンでPKCのイメージングとCa^<2+>濃度変化及び電位変化の記録を経時的に行うことができる実験システムの構築を目指した。所属する研究施設の既存の設備やこれまでの経験を考慮し、PKC結合性蛍光色素を用いた方法の確立を目指した基礎実験を行った。 (1)PKCの薬理学的活性化によるトランスロケーションの可視化 PKC結合性蛍光色素fim-1を記録電極の内液に加えることにより海馬スライス標本上の単一錐体細胞内に充填し、PKCの活性化剤であるphorbol 12-myristate 13-acetate(100nM)を細胞外に投与して、蛍光を観察すると同時に電気生理学的記録を行った。その結果、薬物の投与後15分ほどで細胞体の膜付近にfim-1由来の蛍光の集積がみられ、PKCのトランスロケーションと考えられた。この間、シナプス電流の応答特性が変化し、PKC活性化の結果と言われている薬理効果が確認された。 (2)PKCのトランスロケーションと細胞内Ca^<2+>濃度変化の同時検出 同様の方法でCa^<2+>感受性蛍光色素であるbis-fura-2をfim-1と共に細胞内に充填し、両色素を特定の波長で逐次励起して蛍光を観察することにより、PKCの動態とCa^<2+>濃度変化の検出を試みた。トランスロケーションはCa^<2+>濃度上昇とほぼ同時に始まったが、Ca^<2+>濃度が元のレベルに戻った後も持続した。細胞内Ca^<2+>濃度上昇はPKC活性化のためのスイッチとして働き得ることが示唆された。
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