【目的】本研究では脳幹の主たる下行性投射系である網様体脊髄路及び前庭脊髄路による歩行リズム生成機構の駆動・修飾様式の解明を目的としている。本年度はこれら下行性投射系の脊髄投射部位に存在し、左右歩行リズムの協調的形成に重要な役割を持つ脊髄交連細胞の神経伝達物質の同定について神経解剖学的手法を用いて解析した。 【方法】実験動物には成ネコを用いた。ネコを経心臓的に灌流固定し脊髄を摘出し、腰膨大部(第3腰髄から第1仙髄)を含む腰仙髄部の凍結横断切片(厚さ50μm)を作製した。これらの切片に抗choline acetyltransferase(ChAT)抗体と抗GABA抗体の抗トランスミッター抗体を用いて免疫組織化学反応を行なった。これら免疫染色した切片標本をもとに免疫陽性細胞の腰髄内分布及び形態について解析した。 【成績および考察】抗ChAT抗体を用いて免疫反応した切片では脊髄内にChAT陽性細胞が多数標識されたが、抗GABA抗体で反応した切片ではGABA陽性細胞は見出せなかった。ChAT陽性細胞の多くは脊髄前角のIX層に分布していたが、これらの殆どが大型細胞であり、即ち運動ニューロンであった。IX層に加えてVII-VIII層にもChAT陽性細胞が標識されたが、その数はIX層に比べて少なかった。これら標識細胞の中でも交連細胞の多く分布するVIII層内のChAT陽性細胞は中型から大型のものが主体であった。これまでに行った腰髄交連細胞の軸索投射様式の解析結果から、大型の交連細胞の多くは長い軸索投射を持つ脊髄固有細胞であることが示唆されている。したがって今回標識されたVIII層内のChAT陽性細胞の多くは長い軸索投射を持つ細胞であると考えられ、腰髄内で軸索投射が終止する交連介在細胞の多くはacetylcholine以外の神経伝達物質を持つと考えられた。
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