研究概要 |
胎仔精巣の始原生殖細胞(PGC)を起源細胞とする分化多能性の腫瘍である精巣性奇形腫(テラトーマ)の原因遺伝子,起源細胞の分子的特性及び形成機構は未だ不明である.そこで本研究においては,精巣性奇形腫の自然発症率及び実験的誘発率の異なるマウスの系統差を利用して研究を行い,本年度は次の成果を得た. 1.実験的精巣性奇形腫の原因遺伝子候補を網羅的にマウスの染色体上にマッピングする為に,胎仔精巣の移植体に実験的精巣性奇形腫を高率に形成する129/Sv-+/ter(+/+)系(以後,129系)と形成率0の系統間のF2胎仔の実験的奇形腫の有無と染色体の各種マイクロサテライトDNAマーカーのPCR産物の系統多型(SSLP)との連鎖解析を行った.その結果,複数箇所に形成遺伝子候補と抵抗性遺伝子候補を推定できた.引き続きマウスの組み合わせ系統を変えて,マッピングを完成させる. 2.昨年度,129/Sv-+/ter系のter/ter及び+/+マウスのそれぞれの自然発症性及び実験的奇形腫形成初期過程において同様に,初期胚細胞,PGC及び胚性癌腫細胞に発現する抗原を発現し生殖細胞特異タンパク質の発現を消失する数少ない初期テラトーマ細胞を見いだした.また,129系と実験的奇形腫形成率0の系統間の再構成精巣における奇形腫形成の有無は,精巣体細胞の系統差に因った.その際分化成熟したテラトーマを指標にした.そこで本年度は,テラトーマ形成の初期過程における先述のマーカーの発現を再構成精巣を用いて調べたところ,129系体細胞を持つ再構成精巣に於いてのみ,それらのマーカーの発現変動を示す数少ないテラトーマ初期細胞が出現した.この結果は,特定のPGCが実験的奇形腫形成へ向かう初期機構に精巣体細胞からのシグナル或いは因子が重要であることを示唆し,それを解析する手がかりが得られたことを示している.
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