本研究の目的は、凍結融解精子から産子がえられるようなラット精子の凍結保存法の確立である。今年度はこれまでの研究実績に基づき、ラット凍結融解精子の受精能力および産子への発育能力を調べた。ラット精巣上体精子を卵黄とラクトースを基礎組成とした凍結培地とし、これに凍害保護物質として0.7%equex stem(ES)および3.0%グリセリンを添加もしくは無添加したもので凍結した。これらの凍結融解精子を偽妊娠誘起させた雌ラットの子宮角上部内へ注入(子宮内人工授精)した。授精後の翌日をDay 1としてDay 22にこれらの雌ラットの剖検をおこない、胎子が確認されたものについて融解精子の授精においてグリセリン無添加・ES添加区が妊娠率、胎子数において他の試験区よりも有意に高かった。しかしながら、このグリセリン無添加・ES添加区の成績は、前年度の胚盤胞への発育率と同様に、新鮮精子の授精区より有意に低い値を示した。凍結融解精子由来の摘出胎子の一部(20匹)を里親に離乳まで哺育させたところ、19匹が離乳に至った。これらの凍結融解精子由来個体の繁殖能力を交配試験により確認した。本研究で開発した方法により、-196℃にて凍結保存したラット精子を子宮内人工授精することにより産子がえられることが明らかになった。この子宮内人工授精成績は、新鮮精子をもちいた場合と比較して低い。しかし、凍結融解精子の子宮内人工授精により複数の外見上正常で繁殖能力を有する産子をえることができた。
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