昨年度本研究において、結節性硬化症原因遺伝子の一つであるTsc1遺伝子ホモログのノックアウトマウスを作製し、ヘテロ変異体において腎腫瘍や肝血管腫が発生すること、ホモ変異体は胎生致死であることを明らかにした。本年度は、Tsc1遺伝子産物(hamartin)の機能解析を行うためのin vitroの実験系として、Tsc1ノックアウトマウスの腎腫瘍より培養細胞株を樹立した。シスト状の腫瘍から樹立したいくつかのCACL1細胞株は上皮様の形態を示し、ZO-1抗体染色により細胞接着部位が一様に染色された。また、CACL1細胞株群においては近位尿細管のマーカーとして知られるaquaporin-1遺伝子の発現が検出されたが、集合管のマーカーであるaquaporin-2遺伝子の発現は検出されなかった。CACL1細胞株群はどれも野生型Tsc1アレルの欠失を示し、Tsc1遺伝子の2ヒットが生じていることが明らかとなった。さらに、マウスhamartinに対する抗体を作製し、ウェスタンブロットを行ったところ、確かにhamartinのバンドが検出されないことを確認した。これまでに作製されているEkerラット由来のTsc2欠損腎腫瘍細胞株においては、Erc/mesothelin遺伝子が高発現していることが知られているが、CACL1細胞群においてもErc/mesothelinの高発現が認められた。CACL1細胞群にはヌードマウスにおける造腫瘍能は認められなかった。現在、テトラサイクリン誘導性のhamartin発現CACL1細胞株の樹立を目指している。今後三本研究で樹立したTsc1ノックアウトマウスと腎腫瘍細胞株を用い、hamartinの機能を明らかにしていきたいと考えている。
|