結節性硬化症(TS)原因遺伝子であるTsc1の産物(hamartin)の生体内における機能を明らかにすることを目的として、Tsc1ノックアウトマウスを作製し、もう一つのTS原因遺伝子であるTsc2のノックアウトマウスと表現型を比較検討した。Tsc1ヘテロ変異体マウスにおいては、生後1年3ヶ月から1年6ヶ月を経た時点で腎腫瘍の発生が認められた。また、同時に肝血管腫の発生が高率に認められ、さらに一部の個体では子宮筋肉腫や尾部の血管腫も観察された。Tsc1ヘテロ変異体マウスに生じた腫瘍においては野生型Tsc1アレルの欠失が検出されたことから、それらの腫瘍発生はTsc1遺伝子の2ヒットを起因とするものと考えられた。Tsc1ホモ変異体は胎生10.5日頃に死亡すること、神経管の融合不全を頻発することがわかった。これらの表現型はTsc2ノックアウトマウスの場合に類似するものであり、生体内におけるTsc1産物とTsc2産物の機能の関連を反映しているものと考えられた。しかしながら腎腫瘍が発生する時期は明らかにTsc1ヘテロ変異体マウスの場合の方が遅いこともわかり、両遺伝子変異による腫瘍発生の機序には違いがあるものと推察された。また、hamartinの機能解析の実験系に用いるため、Tsc1ノックアウトマウスの腎腫瘍より培養細胞株を樹立した。樹立したCACL1細胞株は上皮様の形態を示し、Tsc1の2ヒットが検出された。抗マウスhamartin抗体を用いたウェスタンブロットにより、hamartinのバンドが検出されないことも確認された。Ekerラット由来のTsc2欠損腎腫瘍細胞株においては、Erc遺伝子が高発現していることが知られているが、CACL1細胞においてもErcの高発現が認められた。CACL1細胞群はヌードマウスにおける造腫瘍能を示さなかった。今後、本研究で樹立したTsc1ノックアウトマウスと腎腫瘍細胞株を用い、hamartinの機能を明らかにしていきたいと考えている。
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