生体が遺伝子レベルで低酸素に適応するときの細胞内酸素濃度を燐光寿命から明らかにすることを目的にした。平成12年度科学研究費補助金により燐光寿命測定装置の性能は大幅に改善した。安定した燐光寿命を測定でき、その寿命の値は文献値とよく一致した。これを受けて本年度は細胞内酸素濃度と遺伝子レベルの低酸素応答の関係を解析するために、低酸素に対する細胞の応答を詳細に検討した。酸素消費速度は温度を密接な関係があるため、まず密閉型フローセル内の灌流温度を37度に厳密に保てることを確認した。細胞内在の酸素濃度インジケーターとして、低酸素時の細胞内NADHの蛍光強度変化の検出を試みたが、単一細胞からの信号は非常に弱かった。低酸素誘導因子の活性化に伴う核移行を抗体を用いて確実に検出できる条件を検討した。ウェスタンブロツトではコバルト処理により低酸素誘導因子の分子量に相当するバンドが強く現れた。一方、固定した細胞の免疫染色では明確な核移行を確認できず、低酸素誘導因子抗体に適した固定法を検討中である。低酸素負荷が低酸素誘導因子の活性化によって生存へ向かわせるのかあるいはアポトーシスへ向かうのかを検討するために、アポトーシス促進の指標としてBAX遺伝子活性化をRT-PCRで検出できるようにした。今後は燐光寿命測定装置を用いて、培養細胞の細胞内酸素濃度を評価し、低酸素誘導因子の核移行による標的遺伝子活性化を、そのメッセンジャーRNAやタンパクの発現と対応させる予定である。
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