本研究では、視線入力装置で発生する誤入力を防ぐために、視線により「選択した文字」が、「選択しようとした文字」かを、脳波によって識別できるかを検討した。実験では、実際に見た文字背景が赤く変化した場合の脳波を正判定脳波、実際に見た文字の隣の文字背景が赤く変化した場合の脳波を誤判定脳波として、正判定脳波と誤判定脳波の判別を試みた。 その際、統計的t検定で使われるt値を全ての誘発脳波測定時点に関して計算した結果、正判定と誤判定の脳波振幅情報が統計的に異なる時点が、文字背景が変化した後200ms前後に多く存在することが分かった。そして、t値が有意水準5%を超える時点の脳波振幅情報を入力とし、選択文字に対する正誤を出力としたニューラルネットワークを構成し、選択文字に対する脳波による識別を試みた。また、t値最大時点の脳波振幅情報を入力としたニューラルネットワークによる識別、マラノビス距離を用いた判別分析による識別なども検討した。 その結果、t値が有意水準5%を超える時点の脳波振幅情報を入力としたニューラルネットワーク、及び、t値最大時点の脳波振幅情報を入力としたニューラルネットワークの両方とも、被験者平均で50%以下の識別率となった。また、t値最大時点の脳波振幅情報を入力としたマラノビス距離を用いた判別分析では、ニューラルネットワークの場合よりは高い50〜60%程度の識別率を得られた。さらに、脳波をウェーブレット変換した後、正誤判定を行う方式や、脳波最小振幅からの振幅差や脳波最大振幅からの振幅差などを用いて識別率の向上を図った。その結果、ある被験者に対しては、識別率が80%となるような結果も得られたが、被験者平均では、識別率は60%前後に止まる結果となった。今後は、視線入力装置における画面デザイン、明るさなど種々の条件を変えて実験を繰り返す。
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