生物細胞懸濁液や生体組織のインピーダンスを広い周波数範囲で測定すると(インピーダンス・スペクトロスコピー)、誘電緩和現象が見られる。この誘電緩和スペクトルを解析すると、細胞や組織の構造や電気的性質を知ることができる。この方法は細胞や組織の平均的な性質を調べるのには都合が良いが、個々の細胞や組織の局所部分の性質を調べることはできない。このために、微小プローブを試料上で走査するインピーダンス・イメージング法(走査型誘電顕微鏡)の開発を行ってきた。本研究では光学顕微鏡で試料の形態を確認しながら、そのインピーダンス・イメージを高精度で求めることができるように、光学顕微鏡に走査プローブ・ユニットの組み込みを行った。これによって、生体組織や細胞の形態と電気的性質の相関を明らかにすることができる。位置決め精度の高い顕微鏡用X-Y自動ステージを光学顕微鏡に組み込み、X-Yステージとインピーダンス測定の制御を行うためのコンピュータプログラムを完成させた。ITO透明ガラス電極を使用した試料ホルダーを試作し、また、針状のプローブを顕微鏡のコンデンサーレンズ筒に装着することにより、光学顕微鏡像とインピーダンス・イメージの同時測定を可能にした。測定では、スポット、ラインスキャン、ラスタスキャンの三つのモードが可能である。光学顕微鏡像はCCDカメラよりコンピュータに取り込む。プローブ電極には、注射針内にテフロンコート白金線を挿入した同軸電極を用いた。注射針をガード電極、内導体を測定電極、透明電極を対電極として三端子の構成でインピーダンス測定を行う。 測定系の分解能をナイロンメッシュやステンレスメッシュを用いて検討した。生体組織として、植物の葉の上皮細胞について、インピーダンスイメージと光学顕微鏡像を比較したところ、気孔を構成している孔辺細胞と上皮細胞は異なるインピーダンス・イメージ示し、二つの細胞を区別することができることが分かった。また、開いている気孔と閉じている気孔の区別も可能である。今後、血液細胞や動物細胞の組織培養系での測定を行う予定である。
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