近年、いくつかの電子カルテシステムが実用化され、複数の医療施設で稼動するようになってきている。しかしながら、これまで、電子カルテの安全性(真正性、見読性、保存性)を保証する確立された一般的な手法は存在しない。さらに最近では医療施設間で電子カルテ情報を交換、共有したいという要求が高まっているが、インターネットに代表される広域分散環境における電子カルテの安全性に関しては未だほとんど研究が行われていない。従って、本研究ではまず、電子カルテの安全性として求められるものを要求分析、定義し、インターネットという広域分散環境においてその安全性を実現するための要素技術を洗い出す。それに基づいて、電子カルテの安全性を実現するためのモデルを構築し、プロトタイプシステムを開発し、大学病院間で実証実験を行い、モデルの完成度、およびプロトタイプシステムの性能を評価する。 本年度は、まず、保健医療情報の提供手段を、Static Healthcare Information Service と Dynamic Healthcare Information Serviceに分類した。ここで、Static Healthcare Information Serviceは従来のメッセージ交換と同等のものであり、今後、広域分散環境において保健医療情報を共有するには、Dynamic Healthcare Information Serviceが重要である。そこで、我々は、現在インターネットセキュリティの標準的な技術となりつつある公開鍵基盤を利用して、安全にDynamic Healthcare Information Serviceを行うためのフレームワークを提案した。そして、保健医療情報が必要とされる場面を想定し、それぞれのユースケースについて提案システムが有効であることを確認した。 さらに、提案システムを実現するため、公開鍵証明書を用いて利用者認証を行う利用者認証システムを設計した。
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