生体適合性材料の分子設計の作業理論を構築するために、自己/非自己の選択性に優れるリンパ球を用いて、PHEMA-PSt-PHEMA ABA型ブロック共重合体(以下HSB)表面の生体適合性の発現にとって最適なラメラ幅について評価することを目的とした。8nm、16nm及び43nmの3種類の異なるラメラ幅のHSBを調製した。対照群として、ポリスチレン(以下PSt)及びPHEMA-PStランダム重合体(以下HSR)表面を用いた。リンパ球と材料表面との相互作用はマイクロスフィアカラム法を用いて行った。一定時間浸せき後、HSB表面に対するリンパ球粘着面の形質膜内球状蛋白質の官能基を透過型電子顕微鏡(以下TEM)を用いて解析した。さらにその直径について画像処理解析装置を用いて定量的に評価した。とりわけ、形質膜外層部分に位置するアミノ基(以下NH_2基)、形質膜内層部分に位置するスルフヒドリル基(以下SH基)の直径について計測した。ラメラ幅16nmのHSB表面に対するリンパ球粘着面の形質膜内球状蛋白質のNH_2基及びSH基の直径は正常リンパ球のそれらの直径との間に有意差は認められなかった。一方、ラメラ幅8nmと43nmのHSB表面に対するリンパ球粘着面の形質膜内球状蛋白質のNH_2基及びSH基の直径は正常リンパ球のそれらの直径との間に有意差が認められた。ラメラ幅8nmと43nmのHSB表面でのNH_2基及びSH基は部分的にCappingを形成して観察された。興味深いことに、ラメラ幅8nmでのSH基の直径はラメラ幅43nmでのその直径と同様であったのに対して、ラメラ幅8nmでのNH_2基の直径はラメラ幅43nmでのその直径に比べて大きい値を示した。PSt及びHSR表面に粘着したリンパ球は壊死で壊れていたため、形質膜内球状蛋白質の官能基のTEM解析は出来なかった。以上のことから、HSB表面のラメラ幅のサイズは、優れた生体適合性の発現にとってとりわけ重要であることが結論づけられた。また、HSB表面のラメラ幅16nmはリンパ球形質膜の流動性を抑制することが示唆された。
|