本研究では、細胞内運動について従来行われている顕微鏡観察による生細胞中の細胞運動の観察の方法に、本研究者が開発してきた細胞磁気計測方法を援用して、前者の方法の結果の定量的な解釈や、その機構の推定を可能にすることを目的とする。研究は3年間計画で行われる。本年度は購入予定であった微分干渉顕微鏡の新製品の発売が遅れたこともあり、微分干渉顕微鏡の観察はこれからの課題として、細胞磁気計測と蛍光抗体法による観察とを行った。細胞磁気計測については、特に、磁性粒子を取り込んだ小器官である食胞に対して、細胞内から加わるエネルギーの大きさを推定する実験を行った。これはかつて本研究者によって提案された方法である。これにより食胞に働くエネルギー(E_r)の大きさは、熱擾乱kTの大体1000倍の大きさであることが分かる。実験材料の細胞はJ774.1と呼ばれる培養細胞で強い貪食性を持つ。この方法により、細胞内ATP濃度をMIA(モノヨード酢酸)で低下させたときのE_rを調べたところ、予想に反してE_rは増した。この原因を調べるため、同様に処理した細胞を微小繊維および微小管に対する蛍光抗体染色を行って観察した。その結果、ATP欠乏により微小繊維が破壊されている様子が分かった。しかしながら微小繊維を破壊する薬剤として知られるサイトカラシンBで処理しても、E_rの増加は見られなかったので、単に微小繊維の破壊がE_rの増加の原因でないことが分かった。現在のところ、ATP欠乏によって一部の微小繊維が破壊されるとともに、他方では微小繊維とミオシンなどの運動蛋白との強い結合が同時に起こり、細胞骨格の何らかの再構築(蓄えられていた弾性エネルギーなどの放出の方向の)が起こり、その結果細胞磁気計測によって観察されるE_rの増加が見られたのではないかと考えている。
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