研究概要 |
細胞磁気計測は本研究者の開発した方法である.その原理は,細胞内に磁性粒子を取り込ませ,その後細胞に外部から磁界をかけることにより粒子を磁化し,細胞から発生する磁界(細胞磁界)を計測することを基本とする.細胞磁界の減衰(緩和)は粒子を取り囲む細胞内小器官である食胞の運動を直接反映したものとなるので,この方法により細胞内運動を直接計測することができる.この緩和に対抗するように,弱い磁界をかけることにより,細胞内運動のエネルギー(E_rとする)を測定することも出来る.そこで細胞磁気計測の方法を用いて,微小繊維や微心管などタンパク質繊維の細胞内運動に対する役割を調べることを目的としてこの研究は始められた.補助的な手段として蛍光顕微鏡と微分干渉顕微鏡による観察を用いた.細胞内ATP濃度を低下させる薬剤としてMIAを,微小繊維を破壊するものとしてサイトカラシンBを,微小管を破壊するものとしてコルヒチンを用いた.これらの薬剤を投与した後,E_rの時間経過の測定を行ったり,上記顕微鏡観察を行った.MIAは細胞内ATP濃度を低下させることにより,細胞の多くの機能の低下を招くと思われるが,微小繊維の合成ができず減少することが知られており,実際それが観察されたが,その際60分くらい時間が経過するとE_rが増大するという奇妙な現象が現れた.サイトカラシンBを加えた場合には,E_rは減少した.これは細胞内運動を起こす微小繊維が減少するのが原因だと思われる.コルヒチンを加えた場合にはE_rは増大した.その際顕微鏡ににより微小繊維の増加することが定量的に検証された.以上をまとめると,細胞磁気計測によって細胞骨格に対する薬剤やATP合成阻害剤の細胞ない運動に対する影響が定量的に測定された.結果には尚説明が困難な点が残っているが,当初の目標は達成したと考えている.
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