本研究は、多変量自己回帰モデルをヒトの神経性循環調節システムに適用し、心機能と血管運動性交感神経活動の両要因を含む神経性循環調節システムを一元的に解析し、統合的にシステム同定することを目的とする。平成13年度は実験を行ない、実験データについて解析を進めた。(1)安静時にはBP-to-RRI(体血圧1mmHgの上昇による心電図RR間隔の変化)は1秒後一過性にRR間隔が約4msec延長し、BP-to-MSNA(体血圧1mmHgの上昇による筋交感神経活動MSNAの変化)は1秒後一過性にMSNAが抑制された。RRI-to-BP(心電図RR間隔1msecの延長による体血圧の変化)は1〜3秒間一過性に約0.02mmHg体血圧が低下し、MSNA-to-BP(筋交感神経活動による体血圧の変化)は6-7秒後に体血圧のピークとなり20-30秒にわたり緩徐に基線に復した。(2)起立時には、BP-to-RRIは減弱したが、BP-to-MSNAは維持された。RRI-to-BPおよびMSNA-to-BPはともに増強した。(3)高齢者では、BP-to-MSNAおよびRRI-to-BPは不変であったが、BP-to-RRIは軽度減弱し、MSNA-to-BPは若年者と比較して著明に減弱した。神経性循環調節システムのような生体フィードバックシステムにおいては圧受容器反射機能だけでなく効果器側の自律神経活動による心血管系の反応性も評価する必要があり、このような複雑なシステムの記述に多変量自己回帰モデルは有用であると考えられるが、他方、下半身陰圧負荷時の圧受容器反射機能について、頸部チェンバー法を用いて求めると圧受容器反射機能は不変であり、多変量自己回帰モデルによる解析結果と一致せず、モデルの妥当性および非線形性について今後さらに研究が必要であると考えられた。
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