本研究課題に基づき平成12-13年度に達成した研究成果は、ヒト脳型カルボキシペプチダーゼB(HBCPB)のアルツハイマー病における病態生理学的意義を解明する目的から特にHBCPBのC端側の特異的部位(C14モジュール)に着目し、(1)病理組織形態学的に、および(2)生化学、分子生物学的に明らかにしたものである。 (1)孤発性アルツハイマー病患者脳および(神経病理学的に)正常老人脳5例を研究対象とした。HBCPBは特定の神経細胞の細胞質のとくに小胞体に局在することを既に明らかにしているが、その発現がアルツハイマー病患者で定性的、定量的にどのように変化しているかを抗C14モジュール抗体を用い明らかにした。アルツハイマー病で障害を受ける海馬菱形ニューロン(記憶機能)と免れる外側膝状体ニューロン(視覚機能)細胞質での発現を比較解析した結果(定量解析ソフトを備えた共焦点レーザー顕微鏡により各細胞質のC14活性をベータアミロイドあるいはニューロフィラメント活性を対照としてHBCPBの変動を定量した)、患者脳5例全てにおいて菱形ニューロンでの選択的発現低下(正常例の35-50%)と局在様態の変化(正常例の均一果粒状から顆粒の斑状発現への変化)を確認した. (2)HBCPBのC14モジュールについてペプチドライブラリーを作成し、抗C14モジュール抗体によりエピトープ解析を行った。その結果このモジュールは各7アミノ酸からなる2個のエピトープ(EP1とEP2)からなり独立性の高いEP1に対するウサギ抗体を作成した。合成ベータアミロイド1-42を基質とするHBCPBによるC端側消化実験系において、EP1ペプチドの過剰、抗C14-EP1抗体の共存がいずれも反応を阻害した。 以上よりC14モジュールに注目したHBCPBの機能解析が有用であり、ベータアミロイド消化酵素(治療薬)してのHBCPBの可能性解析に向けて、一定の基盤を形成できた。
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