平成13年度は20世紀の空間認知論を取り扱った。具体的には、マーによる計算主義的な視覚論に対し、20世紀後半の認知科学が及ぼした影響のうち、ユレシュが行なった「ランダムドット・ステレオグラム(RDS)による立体視」の研究を、現象学との関わりにおいて分析することを試みた。ユレシュはRDSによる両眼立体視の原理を明らかにしたことで有名であるが、1995年に刊行された『知覚についての対話』の中で、単眼による手がかりなしで立体視が可能であることにすでにヘルムホルツが気づいていたことを評価し、RDSの発見に至るまでそうした事実が忘却されていたことを指摘している。本年度の研究では、ヘルムホルツのこうした研究を確認し、立体視現象の解釈において、計算主義を軸としたヘルムホルツ=ユレシュの理解モデルがどのような形で成立しうるかを分析した。その上で、計算主義的な視覚論(マー)やコネクショニストらの議論(チャーチランド夫妻)をも考慮しつつ、空間視に関わる現象学的諸概念(「キネステーゼ」「射映」「奥行き」等)を、RDS現象などの認知科学の知見に照らして改鋳するという作業を行なった。その成果は「空間表象の構成-奥行きと視覚-」として公表される予定である。
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