中世後期からルネサンスの哲学を背景にスピノザ哲学の独自性を測定するべく、今年度はその思想の形成を、『短論文』・「形而上学思想」・『知性改善論』の読解、及び、晩期スコラ哲学ならびにデカルト派の哲学との対比において検討した。具体的な研究成果は以下の通りである。 1.これまで『知性改善論』は『短論文』の後に書かれた著作であると思われてきたが、最近の研究において(Migniniによって)提出された、最初期に位置する著作であるとの解釈ならびにテクストの検討を行い、基本的にこの解釈の正当性を、特に書簡の検討を通して確認した。 2.次いで『知性改善論』の独自性をデカルト哲学の観念説との関係において検討し、観念の力動性の意味を明らかにすると共に、この書物が未完であることの理由に関する諸解釈を、特に『エチカ』の「共通概念」との関係に焦点を集め検討した。 3.さらに『短論文』の検討を行い、特に第一部に見られる汎神論的思想の表現主義的意義を解明し、ルネサンスの哲学との関係に関する手がかりを得た。 以上の研究を進めつつ、『知性改善論』の翻訳を、諸版の校合及び各国語訳の参照を行いつつ完成させ、これは解説と共に近々刊行予定である。 著作執筆年代決定の変更に伴い、研究の順序を変えざるを得なかったため、「形而上学思想」の検討及び(とりわけ原因概念を巡る)ヘーレボールドを代表とする晩期スコラ哲学との関係に関する検討は、残念ながら終了しておらず、この点に関する研究を早急に完成させる予定である。また、『短論文』において既に見られる汎神論的思想をルネサンスの思想と対比させるという主題、またそこにおける属性の位置づけ、ならびに(第二部で論じられる感情論の受容をも含めた)デカルト哲学との対比は手つかずであり、この点に関しては、研究計画通り、来年度に集中的に行う予定である。
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