本研究は、元代の朱子学、特に元人の経書研究に着目し、朱子本来の経書解釈を元人がどのような形で受け継ぎ、後代にいかなる影響を及ぼしたかについて検討することを目的としている。 (1)『春秋』・『礼記』に対する元人の主要な注釈書について、『四庫全書総目提要』を手がかりに、清人の評価ならびにその経学史上における位置づけを確認した。この『春秋』・『礼記』に対して、朱子は独自の注釈書を成しておらず、今後は元代の朱子学者たちがこの点をいかに補っているか、またこれらの注解が明代の『五経大全』にどのような形で取り入れられていくかについて検討したい。 (2)黄智信「元代經學研究論著目録」(『中國文哲研究通訊』第26号・1997)の補いとして、近年、発表された元代思想に関する著述・研究論文の整理を行った。日本国内においては、許衡や呉澄など、元代の大儒とされる人々に対する個別研究は盛んであるが、通史的な思想研究はほとんどみられず、元代は依然として宋学を墨守した時代として定義されている。一方、国外においては、『元代經學国際研討會論文集』(中央研究院中國文哲研究所・2001)が刊行されるなど、今後もこの領域への意欲的な開拓に期待が高まる。 (3)黄孝光「元代的四書學」(『木鐸』第7期・1978)の付録「元人有關四書研究著作目録」をもとに、元代に数多く刊行された四書注釈書の日本における受容について調査を行った。なお同論文の翻訳は『甲子園短期大学紀要』第19号に掲載されている。また黄孝光氏と同様の手法で、『元史芸文志』・『千頃堂書目』・『経義考』・『古今図書集成』・『宋元学案』・『続文献通考』などを参考に、元人の『春秋』・『礼記』に関する注釈書の目録を作成中である。
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